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あの商店街 時事番外

学校を襲った停電と断水が自然災害による物だったことを私は下校中の商店街で見たテレビで知った。どこかのド田舎で異常気象からくる害虫の大量発生が原因で、発電所の重要な機関にそれらが入り込み機能がマヒ状態に陥った。こんな下等生物の所業でいったい何人の生徒が無実の罪で虐殺されたことだろうか。そう思うと私は人間以外の生物に八つ当たりでもしないと気が収まらなかった。こういう時はこの街、唯一のペットショップに足を運ばざるを得なかった。
電気の復旧した商店街は壊れていない照明以外は点灯しいつものように薄気味の悪いBGMが流れ貨幣経済そのものを呪詛していた。この陰気な商店街がこれ以上暗くならなくて良かったと思った。

なじみのペットショップに入ると店主が「西村君、停電のおかげで酸素ポンプが止まって熱帯魚が全部死んじまったよ」と肩を落としていた。昨日まであんなに元気に餌の生きたネズミを食らっていた南米の肉食魚たちが今では力無く水槽の上で横たわっている。ただでさえ生きている生物より死んでいる生物の方が多いこのショップはさらにその比率を偏らせているようであった。
犬猫やげっ歯類に飽きた店主は商品ラインナップの一新をはかり奇妙な昆虫や熱帯魚を大量に密輸した。しかし、昆虫はこの国の気候に合わず早々に全滅して軌道に乗り始めた熱帯魚も死に絶えてしまった。店主は「こんなもの猫だって食べないよなあ」と呟きながら魚の死骸をビニル袋に詰めて捨てた。彼が死骸を処理するのは珍しく、大きなショックを受けているのがその殊勝な行動からよく分かった。

あまり行きたくなかったが憂さ晴らしのアイテムを求めてゲームショップに入った。いつ行っても店主がポルノゲームで自慰に耽っており常に精液の臭いが立ち込めていた。それがゲーム機の本体やカセットの基盤から発する臭いと混ざり合い凶暴なバイオマシーンに支配された暗黒の未来だけを私に想像させた。その想像に違わず彼は自慰行為にわずかでも水を差されると使用済みの性玩具やポルノゲームのパッケージを相手が客であろうと猛烈な勢いで投げ付けてくる。
入ると案の定店内は荒れており壁に叩きつけられてバラバラになった中古ゲーム機や引きちぎられたケーブル類がやはり破滅的な未来世界を彷彿させた。店主はレジ奥の座敷で下半身丸出しで転がっており自慰に疲れて眠っているようだった。荒廃した未来を舞台にしたSFなゲームが欲しくなったが私は肝心なことを思い出した。

数日前、両親の形見でもあったTⅤが何の理由も無く映らなくなってしまった。恐らく成仏したのだろう。これではゲームを買った所で遊べないのは明白だった。私はいち早くこの不快な空間を立ち去ることにした。商店街に寄り道をしたはいいが憂さなど晴らせず苛立ちだけが無闇に積もった。ミリタリーショップのじじいは持病のヘルニアが悪化し近隣のERに搬送されたが在りもしない軍病院での治療にこだわり続けた挙句、精神病院に移送されてそのまま休業になってしまった。
私はとぼとぼと商店街を抜ける道を進むと先週、娘が首吊り自殺をしたことにより廃業してしまった電気屋に廃棄された家電が大量に積んであった。私は新しいTⅤが手に入るのではないかと家電の山を漁り始めた。トースターやマッサージ機など必要の無い物ばかりでうんざりしたが小型冷蔵庫の下敷きになる形で薄い液晶TⅤを見つけた。冷蔵庫の角がモニタを圧迫しており損傷している。それでも私は引きずり出し自分の部屋まで持って帰った。動くか分からないのでゲーム屋には戻らなかった。

古いTⅤをどけて新しいTⅤを配置した。電源を入れると私の部屋にはアンテナが繋がっていないので酷く歪んだ。液晶の破損した部分はノイズとカラーとモノクロが濡れたように滲んで混ざり合い恐ろしい異次元へと繋がるトンネルのように見えた。しかし音声はまともだった。
適当にチャンネルを逆に進めるとよく分からない都市の断片映像と外国語の歌が聴こえてきた。それはロックの音楽で演奏しているのは白人、よく知らない白人だけど過去にたくさんの人々を酷使してその富を奪ってきた卑しい民族に違いない。眺めているとその音楽は私を和ませ奮わせ優しさや激情を生んだ。